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MBA流 ロジカル地域医療連携 1

株式会社ニューハンプシャーMC

代表取締役 上席コンサルタント 柴田雄一

●振り回され放しの地域医療連携室

 

  2000年の春、突然院長室に呼び出された。「君、明日から地域医療連携室を新設するからそこの室長としてがんばってくれ」と院長から告げられた。何のことか良くわからないまま事務長に相談したが、「加算をとるために紹介率を上げるんだ。まぁがんばれ」と結局「がんばれ」だけだった。前から地元医師会担当で、愛想もいいから。そんな理由で連携室長に選ばれたのだろう。調べてみると、「急性期病院加算(2000年改定時)」の要件として紹介率30%以上をクリアする。事務長が言っていたのはこのことだろう。紹介状の数を増せということだな。でもそのために一体、明日から何をやればいいんだろう。連携業務に関する資料もなければその経験を持っている仲間もいないが、いつまでも机に座っていても始まらない。とりあえず知り合いの近隣の診療所を回り始めた。そして暑い日も寒い日も雨の日も風の日も、毎日足を棒にして暗中模索を続けながら訪問を継続してがんばった。その甲斐あってやっとのことで加算を取得。そして、連携室の業務も自己流だが固まってきた。連携担当者の数も増え、登録医も増え、紹介件数もさらに増えた。ところが、ようやく軌道に乗り始めたと思っていたある日、2006年診療報酬改定の速報をみて愕然とした。紹介率関連加算の廃止が決定し見事にハシゴがはずされたのだ。これまでやってきたことは何だったんだ。で、これから何を目標にしてがんばればいいんだろう…。

 

●知識と知恵は違う

 

  現状置かれている連携担当者の悲哀をつづってみたが、読者の方も少なからず共感する部分があるかと思う。これまで病院経営を取り巻く環境は、好むと好まざると行政に誘導されてきた。そして診療報酬という名の方程式に従い数値を入れて“解”という報酬を得てきた。いわば a+b=c というパターンを持っている日本の偏差値教育と似たような知識重視の考え方(知識型思考)を持っていればよかった。しかし、世の財政も厳しくなり病院経営も新たな考え方を求められてくるようになった。この新たな考え方というのは、 cという“解”を得るため自分で方程式をつくるところからはじめる知恵重視の考え方(知恵型思考)である。

  前述した今春の紹介率関連加算の廃止は良い例だろう。今までは、方程式にあたる紹介率の算定式に当てはめていけば、“解”という報酬を得られた。つまり、分子である紹介件数および/または救急件数を増やす。分母である初診患者を減らす。ある意味これだけに集中すればよかった。しかし、その方程式がなくなった今、どのようにして“解”を得るのか自分たちで考えなくてはいけなくなった。これまでどおり紹介患者数を上げればそれでよいのか。初診患者を抑制すればそれでよいか。そうではないだろう。今どうすればいいかまったくわからない急性期病院は、知識型思考であることの証拠だ。このように知識型思考であると知っている分野には強みを発揮できるが、未知の分野にはなかなか対応できない。一方で、知恵型思考は経験のない場面に遭遇しても、もともと方程式からつくることを知っているため、さして慌てることなく対応できるのだ。知識と知恵の語意を知ると2つのタイプの違いがわかる。

  つまり知恵型思考とは、“考えるコツ”を知って理を悟り、適切に処理する能力である“解へ導くコツ”が使えることである。考えるコツとは論理的な思考回路を身につけることであり、また、解へ導くコツとは経営課題に対応するためのセオリーや事例を知り使えることである。本連載では方程式がなくなった地域医療連携活動の今後ヒントとなるよう「MBA流 ロジカル地域連携」と題し、ビジネススクール(MBA)で学ぶようなマネジメント手法やマーケティング手法などの方法論を使った“解へ導くためのコツ”と、論理的(ロジカル)に地域連携活動を行っていくために必要な“考えるためのコツ”についてお伝えできたらと思う。

※MBAとはMaster of Business Administration 経営学修士の略でビジネスのプロとでも呼ぶ人材育成を目的とした大学院で取得する学位のことである

 

 

●風が吹いたからって

桶屋(ルビ:おけや)は儲からない?

 

  さて、まずは考えるコツとは何か。考えるコツ≒論理的思考回路を身につけることだと前述した。そもそもロジック(論理)って何だろう。辞書で引いてみると

と書かれている。つまり、結果や現象とその原因の間にあるそれぞれの要素のつながりになるメカニズムやシステムのことであり、因果関係のプロセスでもある。まだ、わかりづらいので、一つクイズを出そう。

  『風が吹けば桶屋がもうかる』ということわざがある。風が吹くと砂ぼこりが舞い上がり盲人が増え、盲人は三味線を弾くので三味線に張る猫の皮が必要で猫が減り、天敵のいなくなったネズミが大量発生して桶をかじられるので桶屋が繁盛する。だから風が吹けば桶屋がもうかるという理屈だ。これを知ったあなたは、空っ風の多い地域で桶屋を始めるだろうかというのがクイズの内容だ。ほとんどの人は“多風地域だからという理由”ではまずやらないだろう。“風が吹く”という原因と“桶屋がもうかる”という結果の間にあるそれぞれの因果関係がこじつけだらけの屁理屈だと簡単に理解できるからだ。

しかし、世の中には風が吹けば桶屋がもうかると思い信じて行動している人は多い。そんなことないだろうって? では、国内企業のうち毎年2万件前後が倒産しているのはなぜだろうか。成功を信じて活動(=原因)した結果が倒産である。通常の世界では“風桶”のように1本で因果関係が明確になることはない。しかし、因果関係を明確にしていくことで間違いに気づくだろう。努力しても思うようにうまくいかないときは、“風桶”状態になっている場合が多いのである。

このようにロジックとは人の意思決定を容易にし、人を説得させる力をも持っている。そして、因果関係の間にあるプロセスを明確にしていく必要性がいかに重要で効果的かおわかりになるだろう。つまり、考えるコツとは、因果関係の間にある要素とそれをつなげているシクミを見つけ出す意識と技術を持つことにある。

 

 

●地図がないのに闇雲に

走り出しているドライバー

 

  次は、解へ導くためのコツだ。それは経営課題に対応するためのセオリーや事例を知り使えることであると前述した。ビジネススクールの授業の進め方として学期の前半で、企業戦略、マーケティングなどの経営全般の理論を徹底的に叩き込まれる。それ以降は、ケーススタディと呼ばれる事例研究を行う。これは実際に起こった事例を用いて自分たちならどのようにマネジメントしていくかなどをクラスメイトと議論し、仮説を立てていく作業となるが、実はこの作業に解はないのである。この事例がどうなったかという結果はもちろんある。しかし、授業では立てた仮説がどうなるかは検証できないので正解とも不正解とも言うことはできない。したがって解はないということになる。つまり、このケーススタディを数多くこなしていくことによって、つねに結論を仮説としてもちながら考える癖を身につけるのである。

  例えば、2人のドライバーがスタート地点Aにいるとする。1人はゴール地点Bまでの地図をスタート前に見ることができる。もう1人は、地図を見ることができない。どちらが早くゴールに着くだろうか。もちろん地図を見たドライバーのほうが早く到着すると思われる。これは、地図を見ることで、ゴール地点Bの方向と路順が明確になり、それまでの路順のポイントを知っているため間違った道を選んだとしても、修正が可能となるからである。一方で地図を見ないドライバーは自分がどこにいるかさえもわからない。ゴール地点の方向もわからない。間違っていても修正ができない。ビジネスの世界では、もちろん地図のように明確に示すことはできない。しかし、仮説を持つということは、自分で地図をイメージして結論というゴール地点により効率的に向かう手助けとなるのである。このような例を出すと「当たり前のこと書くな」と思われるかもしれない。しかしながら実際に多くの地域連携活動では、ゴール地点をきちんと設定しているのだろうか。

 

●これはペンです!?

 

  また、あるべき状況というゴールが見えていないと今抱えている問題点や課題すらわからなくなる。そういう意味では、そもそも地域連携活動自体の問題点や課題が把握できていない状態と言える。ここで2つクイズを出す。それでは一つ目。

  英語で、「これはペンです」だ。大体の人は読めるだろう。そして、ほとんどの方はHとAがおかしいと感じているはずだ。では二つ目のクイズをみてみよう。

 



  ハングル文字で、「これはペンです」と書いてある。ハングルがわかる人には簡単だろう。しかし、まったくわからない方には何がおかしいのかわからない。実は、右から4番目の字に一本余計な線が入っている。英語の場合は、正しいスペルを知っているためにあるべき状況とのギャップ(差)がわかり、それが問題点として把握できる。しかし、ハングルがまったく理解できなかった人は、あるべき状況がわからないために問題点が把握できなかったはずだ。

【図1参照】

  ただし、不恰好なローマ字であったり、誤字であったりというのは問題点ではない場合もある。先の例は、字の形を議論したが、読解力という切り口で議論した場合、全く違う問題点になる。英語は読めるので特に問題点はないが、ハングルについては読めないということ自体が問題点となる。また、文章の意味という視点で言えば、「これはペンです」なんて日常で使うことはまずないだろう。よって、それを事例に出した出題者が問題点だといわれる可能性だってある。地域連携活動もそれぞれの病院の立場や環境によって問題点や課題は異なってくるのである。まず自分の位置である現状を把握し、現状の結論として仮説をたてていくことが解へ導いていくためのコツになるのだ。

 

●連携活動の仮説

 

  知恵型思考とは、考えるコツを知って理を悟り、適切に処理する能力である解へ導くコツが使えることである…。フムフム、なんとなく重要なんだろうということはわかった。で、結局何をすればいいの?となる。答えを教えろと思った方は、今まで書いてきたことが伝わっていない。たぶん、筆者の文章力のなさがここでの大きな問題点なのだろう。当然、病院ごとに状況が違う。連携活動の管理や経緯も違う。人数も違う。すべてが違う。そのような状況で答えは出せない。ただし、仮説を出すことはできる。まずは、以下のリストに自院がいくつ当てはまるかをチェックしていただきたい(急性期病院用)。

  すべてにチェックされた病院については、仁術(医療)的側面と算術(経済)的側面のバランスを考えて、紹介入院率と病床稼働率(365日÷平均在院日数)を上げるための活動ロジックを仮説設定するとよい。また、それ以外の多くの病院ではチェックをつけられなかった箇所があったはずだ。そのような病院はマーケティング手法やマネジメント手法を活用して量から質へと業務精度を上げていくことが必要となってくる。いずれにせよ、算術面で現段階では確率の高いルート(救急や紹介)から入院につながる患者を増やし、救急医療管理加算でプラスα幅を伸ばすということになるのであろう。

  今後の連載では、MBA流の各手法を活用した、ロジカルな地域連携活動事例を出していく。今後も地域医療連携の重要性は増えることはあっても減ることはない。「知恵型思考」を身につけ、自院における活動の方程式を見つけ出し解を出していただくことが自院だけでなく地域医療の活性化につながると信じている。

エルゼビア・ジャパン発行 「連携医療」No.52006年 Jul. 発行より転載

http://www.elsevierjapan.com/journal/hnm0607.html